アキバの女性寿司職人 日本文化への挑戦

2018年05月31日



「なでしこ寿司」でカウンターに立つ千津井由貴さん


女性らしい寿司店を目指して

秋葉原に一風変わった寿司店がある。カウンターに立つのは色鮮やかな着物をきた女性。2010年にオープンした「なでしこ寿司」は、男性のイメージが強い寿司職人の文化に一石を投じた。店長の千津井由貴さん(31)はいう「女性らしさを生かした新しい寿司店をつくりたい。」

千津井さんは学生時代に寿司店でアルバイト経験がある。当時、寿司職人は男の世界というのを肌で感じ「女性が寿司を握るということ自体ありえない」と思っていた。美術大学を卒業して百貨店に就職したが、日々のマニュアルに基づいた仕事と「自分で一から何かをつくってみたい」という強い気持ちとの差異でつまずいてしまった。「このまま終わっちゃうのかな......」そう思っていた24歳の時、たまたま手にした求人誌に「なでしこ寿司」のスタッフ募集広告が目に飛び込んできた。これなら何か新しいことがつくれそうだと直感した。「これだ!ってひらめいて迷わず応募しました。」と千津井さんは当時の「衝撃的な出会い」の瞬間を振り返る。

採用後、「なでしこ寿司」を経営する会社が雇ったベテラン男性寿司職人の元で学び、千津井さんはすっかり寿司の世界に魅せられた。「寿司は日本の文化。日本にある大切な四季折々の魚と野菜を組み合わせて握る。(一貫一貫に)たくさんの手数、仕込み、想いが込められているのに、出てくるのはシンプルなあの形。最高に考えこまれたデザインだなって思います。」しかし女性寿司職人ならではの苦労もある。長時間の立ち仕事、重いまな板などを運ぶ力仕事など寿司職人は体力勝負。男性との力の差異を感じることもある。「魚の頭を落とすのも大変です。男性だったら力で簡単に落とせるかもしれないけれど。」寿司店ならではのカウンター越しでの接客も女性寿司職人であるが故に誤解を受けることもある。接客の会話が好意と受け止められてデートに誘われたり、プライベートに踏み込んでくるお客さんから従業員の女性職人を守るのも千津井さんの仕事だ。

「人手が足りなくて困っている。特に寿司職人を志す若者がいない。」東京すしアカデミーの村上文将・講師は、同校の生徒をインターンシップとして多くの寿司店に送っているが、店のオーナーから業界の深刻な人材不足についてよく耳にする。にもかかわらず業界の女性への門戸は狭いままである。村上氏によると、現在でも女性は裏方のみ、カウンターに立てないという寿司店は多いという。しかしそれ以上に女性が向いていないという固定観念から、やはり男性に握って欲しいという客側の強い要望が根強いため、なかなか店側も変わることができないと村上氏は分析する。「なでしこ寿司」に来るお客さんも例外ではない。「女の子にしては頑張ってるね。」という「褒め言葉」や、上司と来店した客が、上司に変わって千津井さんの握った寿司を「毒味」といって食べたことすらあるそうだ。「女性寿司職人は白衣を着てノーメークで握るべきだとよく言われます。」と千津井さん。しかし彼女は敢えてカラフルな和装とメークでカウンターに立っている。それは男性寿司職人にいかに自分を近づけるかではなく、女性らしさを生かして、新しい寿司店をつくることが千津井さんの目標だからだ。

注:この記事は、18才から34才のミレニアル世代を対象としたヨーロッパ公共放送発のデジタルプロジェクト・ウェブアンケート「Generation What?」の質問内容などをテーマに制作しました。参考)Generation What? 「なにジェネ?」https://jp.generation-what.org/ja/




<作品クレジット>
【この記事は、Yahoo!ニュース個人の動画企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

東京都生まれ。上智大学卒業後、渡米。ニューヨークで広告、ファッション業界を経て、フォトジャーナリストとして独立。NYタイムズ、ワシントンポスト、CNNなどをはじめ多くの海外メディアで作品を発表。ニューヨーク、北京を経て現在は東京とボストンを拠点にビジュアル・ジャーナリストとして取材をする傍ら、ディレクター、プロデューサー、シネマトグラファーとして活動。世界報道写真大賞マルチメディア賞受賞。エミー賞ノミネートなど。上智大学文学部英文学科卒業、カリフォルニア州立大学サンタクルーズ校留学、アテネオマニラ大学ジャーナリズムアジアセンター・マルチメディアジャーナリズム学士。

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