30代の向こうがわ ~ミレニアル世代のゲイ写真家が写す同世代の今~

2018年04月10日



筆者撮影


性的マイノリテイーだから見えてきた世界


34歳の写真家・藤元敬二さん。彼と私が初めて出会ったのは、5年ほど前だった。長い髪に長身で、ビーチサンダルと短パンで冬場の東京を歩いていたのが印象的だった。彼はこれからアフリカに一人で行ってゲイの男性たちを撮影すると話していた。彼は臆することもなく、自分がゲイであることを語り、そして自分と同じように生きる人たちを撮影していきたいと語っていた。まだ30歳になるかならないかぐらいの青年だったが、周りに合わせようとせず、自分らしく飄々と生きている姿が印象的だった。長く海外生活をしてきて、ゲイの男性に囲まれて育った私にとっては、懐かしい人な気がした。彼と話していると、久しぶりに自由な風にあたっているような感じがした。2年ほど前に彼が日本に帰ってきて、個展をやっていると聞いて、新宿二丁目を訪れた。そこには難民のゲイの男性たちがベッドルームでささやく情景、うつろな顔で自分を見つめる男娼が映されていた。人見知りで、どちらかというと寡黙な彼が、こうやって一人で海外に行って、ゲイの男性たちのベッドルームまで入り込んで、親密な情景と悲しみを撮影していることに驚きと、感動を覚えた。長身でモデル並みの恵まれた容姿を持ち、もしストレートなら何の問題もなくモテて、彼女を持ち、今ごろ結婚していたであろう藤元さん。そんな彼がマイノリティーに心を寄せ、映し出すことができるのは、本人も言うように、やはり性的マイノリティーとしての苦悩を持って生きてきたからであろう。


藤元敬二撮影


同世代のゲイの中のマイノリティーを映し出す


アフリカのゲイの人たちを撮影してから、しばらく50代から60代の日本のゲイの人たちを撮影していた藤元さん。上の世代の人たちの多くは、偽装結婚をしていたり、差別の多い時代を闘って生きてきた人たちが多い印象を受けたという。そんな流れの中で、藤元さんは同世代のゲイの人たちを撮りたいと思った。今の20代、30代のいわゆるミレニアル世代のゲイの若者たちの価値観や生きかたは、上の世代と大分ちがうのではないかと思ったからだ。今、藤元さんが取り組んでいるのは、同世代のゲイの人たちの中でも、マイノリティーな仕事をしている女装家やAV男優の人たちを撮影するプロジェクトだ。安定した仕事につくゲイの人たちを対象とするより、自分もフリーの写真家として生きてきて、マイノリティーな仕事についているゲイの人たちに共感できるからだと語る。藤元さんの友だちの女装家のバブリーナさんと、その仲間の方たちにお話を聞くと、まずミレニアル世代のゲイは、上の世代に比べ、ゲイであることに悩む人は少ないのではないかと話す。その理由の一つは、メディアでのゲイの露出や社会的認知度が高まっているからではないかという。また出会い方が昔と大分ちがうという。昔はゲイバーやゲイ雑誌の文通欄や伝言ダイヤルで出会っていたのが、今はネットの掲示板やSNSで簡単につながるようになった。でも出会いが簡単で気軽になった分、一つ一つの関係が希薄になったのではとバブリーナさんは語る。ネットで誰とでも簡単につながる世界になったが、でも将来に対する不安や孤独は消えない。将来、パートナーがいればいいが、今、考えられる自分の将来は孤独死だとバブリーナさんたちは語る。それでもネットの世界を活用して、お互いに近くに住んで、グループラインで生存確認ができればいいねと笑いながら語る。藤元さんの同世代のゲイの人たちと話していると、ミレニアル世代ならではのゲイの人たちのこれからの生きかたが見えてきた。


筆者撮影


「自分たちはツナギの世代」


藤元さんは、自分たちの世代は「ツナギの世代」だと語る。これまでゲイの人たちに対して、閉鎖的だった世の中が段々、開いていくところの過渡期にいるのだと言う。まだ友人の中にも、ゲイであることを隠して、偽装結婚をしている人たちもいる。また友人や家族にカムアウトできない人たちだっている。でも上の世代に比べたら、少しは生きやすく、自由になっていることは感じる。完全に踏み切れていないが、少しは進んでいる気がすると言う。そんな踏み出し始めた同世代のゲイの人たちの生きかたを、これからも藤元さんは写真を通して、伝えていこうと考えている。


筆者撮影


注:この記事は、18才から34才のミレニアル世代を対象としたヨーロッパ公共放送発のデジタルプロジェクト・ウェブアンケート「Generation What?」の質問内容などをテーマに制作しました。参考)Generation What? 「なにジェネ?」https://jp.generation-what.org/ja/




<作品クレジット>
【この記事は、Yahoo!ニュース個人の動画企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

16歳で単身、ロンドンに留学。ロンドン大学を卒業後、ニューヨークに渡る。コロンビア大学大学院を卒業後、ニューヨーク大学大学院で映画を学ぶ。2006年、高良健吾の映画デビュー作「ハリヨの夏」で監督デビュー。釜山国際映画祭コンペティション部門に招待される。2011年、浜松の日系ブラジル人の若者たちを追ったドキュメンタリー映画「孤独なツバメたち〜デカセギの子どもに生まれて〜」を監督。2014年、福島の原発20キロ圏内にたった一人で残り、動物たちと暮す男性を追ったドキュメンタリー映画「ナオトひとりっきり」を監督。2015年モントリオール世界映画祭に招待され、全国公開される。

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