四代目カーペンターズ〜映画『トントンギコギコ図工の時間』スペシャルエディション

2018年03月29日

トンギコシリーズ〜小学生にとって豊かな学びってナニ?


2020年度から全国的に施行される新学習指導要領。
ここでは5年生から英語が「教科」となり、年間70時間の授業が加わる。3年生から英語が必修の「活動」となり、同じく年間35時間の授業が加わる。それにより3年生から6年生の小学生の授業数は、年間で35時間増加となる。「ゆとり教育」からの完全撤退となり、子どもたちのハードな時間割が想定される。
先日都内某所で行われた『トントンギコ図工の時間』の上映会後の話し合いで、近所のある小学校は、2018年度4月から、5年生以上の学年では7時間授業の日ができるそうだと。


トントンギコギコ図工の時間©2004Nonaka Mariko Office


学校が好きな子どもや、勉強の得意な子どもにとっても忙しい事態が想定されるが、さまざまな環境や資質や生い立ちによって、学校が好きでない子どもや、勉強が不得意な子どもにとって。そしてまた、自身は小学校で英語を教わったことのない、現場でがんばっている先生たちにとって。キツイ事態にならないだろうか?小学校はいっそう生き生きとした学び舎になるであろうか?新しい時間割は豊かな学びを創出するであろうか?
もちろん外国語を話せたり、読めたり、聞けたりしたら違う文化の人ともコミュニケーションできて、子どもの人生も豊かになるかもしれない。
しかし通信簿で採点される教科が1つ増える。それが「英語」という、日本語を母国語とする家庭で育つ多くの子どもにとっては、ハードルの高い教科であることが心配。各家庭、各自治体の教育格差も想定される。
小学生にとっての豊かな学びってナニ?という大問題。周辺教科と言われる「図画工作科、わたし的に図工」の視点から、深く探り考えてゆく。
はじめに温故知新。同じく小学校の時間割にとって「事件」だった2002年度の大いなる実践を公開する。

図工科&音楽科「2002年度事件」をポジティブ変換した小学校の図工の記録




トントンギコギコ図工の時間©2004Nonaka Mariko Office


2002年度(平成14年度)。
これは日本中の小学校の図工科と音楽科において、「事件」ともいえる年だった。何故ならば、この年度から全面的にスタートした「ゆとり教育」テーマのもとに展開された新学習指導要領。ここで「総合的学習」が導入され、周辺教科である、図工と音楽の授業の時間数が大幅に削減されたからだ。たとえば高学年に於いて、それまで日本中の小学校で年間70時間、つまり2コマ続きで毎週あった図工の時間が、この年度から20時間削減され、年間50時間になってしまったのだ。多くの5年生6年生の図工は、およそ1コマ授業になってしまった。
1コマ=45分。2コマ=90分。図工の授業では、安全確保の指導を含む導入と、後片付け掃除の時間は欠かせない。それを引いた残りが「想像し創作する時間」になる。この時間を、「遊んでいる時間」「役に立たない時間」だから「いらないんじゃないか」として、重きを置かない大人もいる。指導要領改訂の際、「図工や音楽は好きな者がやればよい」という話や、「社会教育でやればよい」などの議論もあったという。
否である。子ども達は、この「遊んでいるような」「役に立たないような」「想像し創作する時間」に、主要教科とも関連する思考でさまざまなことを考え、自分の心に新しい窓を開け、カラダの外の新しい世界の扉を開け、友だちの面白さを発見し受け止め、コミュニケーション能力を育み、今日を生きる喜びをゲットしている。
その時間が削減された2002年度は、つまり「事件」だった。わたし(野中)が映画『トントンギコギコ図工の時間』の撮影を開始したのが、この年だった。


トントンギコギコ図工の時間©2004Nonaka Mariko Office


学習指導要領というものは、突然「明日からこうしてください」と文部科学省よりお達しのあるものではなく、実施に至る数年前から段階を経て、現場の先生たちに伝えられる。開始前の準備期間である。
この準備期間、文部科学省の新しい学習指導要領のほかに。当時の品川区では教育委員会より「特色ある学校づくり」が各学校に一任された。これを受け、第三日野小学校の当時の松山校長先生は、民主的に学校全体で相談する姿勢をとり、「どのような特色ある学校をつくるか」を検討した。
さらに先生たちは、今目の前にいる子どもたちの思いを見逃さなかった。第三日野小学校の子どもたちは、もとより、図工と音楽へ寄せる強い意欲を持っていた。この子どもたちの熱い心情が、保護者や地域の、図工と音楽に対する理解をいっそう強くしていた。図工専科(※注1)の内野先生、音楽専科の加瀬先生の、創造性を育む教育への尽力もあった。
この現実をふまえ、小学生にとって豊かな学びの場である「特色ある学校」をどうつくっていくか。結果、第三日野小学校では、図工と音楽を学校の特色性に掲げることとし、「豊かな感性、創造性を育む教育を重視する学校」を学校経営方針に記す。
そして新たに加わる「総合的学習」の時間から、「図工」と「音楽」へ、両教科が削減される分と同じ時間数を、「図工科から発展した総合の時間」「音楽科から発展した総合の時間」として配当したのだ。
こうして、日本中の小学生の時間割から図工と音楽の時間が削減された「事件」の年、2002年度において、第三日野小学校の5年生の時間割では。図工科50時間+図工科から発展した総合的な時間20時間=(従来通りの)70時間!毎週2コマ続きの図工の時間が、確保されたのだ。
注1)『トントンギコギコ図工の時間』映画パンフレットへの寄稿文。東京都新宿区四谷第四小学校図工専科・東京都図画工作研究会会長、鈴石弘之先生の文章より抜粋引用。
図工専科とは、この映画に登場する内野先生のような、図工専門の教員のこと。2004年現在、公立の小学校で図工専科が存在するのは、東京都全域と、兵庫、大阪、埼玉、神奈川の一部の地域に限られています。
日本では、図工の時間の大半は、担任の先生によって教えられているのが現状です。図工を教えるのが苦手だったり、同評価していいのかわからないと困っていたり、マニュアルによって指導する先生も大勢見られます。
それに対して図工専科は、個性的で、子どもの造形活動を中心にした教育理念を持っています。差異はあっても、優れた図工専科の先生に習った子どもたちの、造形の喜びははかりしれないものがあるように思います。
品川区立第三日野小学校の内野務先生もまた、優れた図工の先生です。子どもの表現意欲を引き出し、子どもたちは喜び勇んで図工室にやってきて、積極的に造形し、すばらしい作品をつくり続けています。(引用ここまで。)


トントンギコギコ図工の時間©2004Nonaka Mariko Office


第三日野小学校の「図工科から発展した総合的な時間の20時間」を使って取り組んだ5年生の授業が、リサイクル資材などで校庭に自分たちで設計した家を建てるというグループ制作「四代目カーペンターズ」である。
「カーペンターズ」は、図工専科の内野務先生が考案した授業で、この年で4年目、だから四代目だ。2002年読売教育賞美術教育賞も受賞した名授業。
とはいえ、当時の5年生は、2クラス。およそ50人の、個性も違い、活発に動き回る子どもたちの建設中の安全を確保し、それを傍らで見守る全校児童の安全を確保し、豊かな学びと楽しさを実現し、存続する中に歴代の校長先生はじめ、全教職員のみなさんの、なみなみならぬ覚悟を思う。
授業のねらいなどを、内野先生に教えて頂いた。
【ねらい】
■屋外で全身を使って、もの・ひと・自然に出会いながらハウス建設に取り組むことを通して、造形活動の楽しさを体感し、自主性、協力することの大切さを育む。
■長期の造形活動をやり遂げることを通して、三日野の教育目標である「ゆたかさ・かしこさ・たくましさ」を総合的に育み、合わせて他学年児童への配慮などを通して、高学年としての自覚を持たせる。
【活動内容】
■ハウス建設会議(建設会社名、建設地決定、建設ハウススケッチ)
■校長室で工事許可書提出
■工具、資材準備、整備
■着工〜工事作業全般、安全確保
■オープンイベント計画
■総点検作業
■ハウスオープン、イベント企画運営
■安全確保
■ハウス保全点検継続
■解体作業全般
■解体資材運搬、整備
図工科の少ない予算。「ハウス」を建てる材料はどうすれば良いか。内野先生は、不要になった選挙ポスター掲示パネルを区から払い受け、それを毎年使いまわして主材とした。なので「ちょっとカビ臭い」ハウスだ。また2002年に始まった「読売教育賞美術教育賞」に応募して、見事受賞したその賞金で、子どもたちが授業でかぶるヘルメットを購入した。
10歳から11歳の5年生が10人程度のグループで、互いに知恵を出し協力して20時間かけて、自分たちの校庭に、全学年で遊べるオリジナルの「ハウス」を建てる。彼らはこの授業で、校庭でナニを学ぶのか?
どうぞ映像コンテンツを御覧ください。視聴時間は7分です。
この映像のもとである、映画『トントンギコギコの時間』は、
ポップコーンシアターhttps://popcorn.theater/films/119
動画配信http://nonaka-mariko.com/
それぞれでご覧になれます。ご鑑賞いただき、子どもたちの豊かな学びについて、ご自分のクリエイティブな暮らしについて、思いをはせていただければ幸いです。
(文責:野中真理子  2018年3月吉日)


<受賞アワード>
文化庁文化記録映画優秀賞受賞

<作品クレジット>
協力:東京都品川区立第三日野小学校のみなさん/撮影:夏海光造/音響:米山靖/音楽:江藤直子/編集:尾尻弘一/監督:野中真理子/©2018Nonaka Mariko Office

東京生まれ。テレビ番組制作会社テレコムスタッフを経て、有限会社野中真理子事務所設立。主な作品:テレビ番組『世界の車窓から』(アルゼンチン、ボリビア、チリ、モロッコ、フィンランド、ノルウェー、イタリア、フランス、ポルトガル、アメリカ他多数)、『NONFIX』(ギャラクシー賞受賞2回)/映画『こどもの時間』(文部科学省選定、朝日映画ベストテン6位)、『トントンギコギコ図工の時間』(文化庁文化記録映画優秀賞受賞、韓国日韓子ども文化交流正式招待、イタリア日本映画祭正式招待、イギリス日本映画祭正式招待、スペイン世界のパノラマ展正式招待)、『ダンスの時間』(シンガポールアジア映画祭正式招待)。二児の母。

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